まだ怒鳴って育成してるの?
人材育成×コーチング=自立型社員

本書の読みどころ

▶部下が自立した人材になかなか育たない
▶育ってもすぐに退職してしまう

そのような悩みを持つ管理職や経営層の方は数多く存在します。
コミュニケーションに苦手意識を持つ若者も増え、人材育成の難易度がさらに高まっているのが現状です。

どのように育成したらいいのかわからずに苦しんでいる方にこそ、ぜひコーチングを活用してもらいたい。そんな思いから、本書では、人材育成にコーチングを取り入れる方法を、著者の実体験に基づき具体的に解説しています。

仕事の場のみならず、子育て・夫婦関係・友人関係など、幅広く使えるコーチング入門書です。

著者紹介

人材育成で大切なこと 人の可能性を引き出すコーチングの真の価値

平野 順子(ひらの じゅんこ)

中小企業診断士、PHP認定ビジネスコーチ(上級)、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー。岩手大学大学院農学研究科を修了後、岩手医科大学医学部にて基礎医学の研究および学生教育に従事する。より幅広く人材育成に携わるため、2005年から様々なコーチ養成機関で体系的にコーチングを学び、ビジネスコーチとして独立。2007年にCoaching Officeを設立して、代表を務める。東日本を中心に、プロのビジネスコーチ・研修講師・人材開発コンサルタントとして活躍中。「関わる方々の自己重要感を高めること」を人生のミッションとし、コーチングを通して多くの方の目標達成を支援。理系出身でロジカルでありながら、自然体な関わりで受講者の学ぶ意欲を引き出す研修・セミナーが好評を得ている。現在では活動の幅を広げ、組織の人材育成に関するコンサルティングや東北で先駆けとなるチームコーチングも行っている。

皆さんは、〝コーチ(Coach)〟という言葉の語源をご存じでしょうか?実は、〝馬車〟という意味です。その馬車という乗り物の特徴から、〝大切な人をその人が望むところまで送り届ける〟という言葉に派生したといわれています。これが、現在のコーチの役割に近い意味を示しているように思います。馬車といっても、現代では身近に走っていないのでイメージが湧かないかもしれませんが、今の乗り物に置き換えるならタクシーのようなものでしょうか。「○○まで行きたいです」とお願いすると、その場所まで、その人が希望する道を通って行ってくれます。実際のコーチングでは、行動するのは本人であって、コーチが運んであげるわけではありませんが、〝その人が望むところに行くためのサポートをする役割〟というのが根本にあると言えます。
現在使われている〝コーチ〟という言葉は、1880年代ころから、スポーツの指導者がコーチと呼ばれるようになったのが始まりといわれています。私がコーチングを勉強し始めたころは、まだビジネス・コーチングの認知度が低く、私が「プロのコーチをしています」と名刺を渡して自己紹介すると、「何のコーチですか?」とよく訊かれました。やはり、〝コーチ〟や〝コーチング〟という言葉を聞くとスポーツの指導者をイメージされる方が多いのは、コーチングがスポーツの分野から発展したからだと思います。
その後、1950年代ころから、主に欧米で、スポーツの分野で使われていたコーチングのアプローチがマネジメントの分野でも応用され始め、そのコミュニケーションの形が体系化されていきました。1980年代にはコーチングに関する出版物が登場し始めています。そして、1990年代後半に日本に入ってきました。

●組織体制と求められる人材の変化

コーチングのような人材育成の関わり方やコミュニケーション・スキルが広がってきたのには、理由があります。それはまず、組織で求められる人材が変化してきたことです。
日本は、〝縦型社会〟とよくいいますが、組織体制として縦のラインが強いピラミッド型を取っていることが多いです。ピラミッド型の組織体制では、トップや上司が答えを考えて、上から下に指示・命令を下ろす、という形で仕事を進めていきます。この組織体制そのものに良し悪しがあるわけではなく、社会情勢や環境、組織の方針、業態、内部の人材の特徴など、そのときの状況に組織体制が合っているかどうかが重要です。日本の組織で縦型の傾向が強いのは、その体制がとてもよく機能していた時代背景があったから、とも言えます。

わかりやすい例は、高度経済成長の時代です。このころは、〝モノ〟の普及が加速していたわけですが、それがまだ飽和していない状況下では、人々のニーズが比較的わかりやすいです。たとえば、自動車がまだ一家に一台普及していないとすると、どのような車が売れると思いますか?そうです、家族全員で乗れるようなファミリーカーがよく売れるわけです。当時はセダン型の車が流行していましたね。そして、一家に一台普及してくると、次は一人一台という流れです。そうすると、コンパクトな軽自動車が売れそうな感じがしますね。
このように、〝モノ〟がまだ普及し切れていないと、「隣の人が持っているものを、私もほしい!」となり、社会全体に何が必要とされているかがわかりやすいです。そうすると、組織のトップも、〝答え〟を考えやすいですし、上司から現場に下りてくる指示も明確です。それを大量生産して、社会に大量供給していけばよいということになります(図1)。そして、このような組織ではどのような人材が必要かというと、〝指示を忠実に実行できる人〟です。 (図1)縦型組織

さて、時が流れ、次第に〝モノ〟の普及が進み、ある程度、満たされてくるとどうなるでしょうか?個々人の〝好み〟や〝価値観〟が表に出てきます。今度は、「隣の人が持ってものがほしい!」となるわけです。組織としては、顧客側の多様化したニーズに、個別対応しなければなりません。そうなると、その答えを全てトップが考えて下ろしていたら時間も労力もかかりますので、それぞれの顧客に現場の人が自分で考えて対応しなければいけない部分が増えてきます。
さらに、全ての現場がバラバラに動くのも効率が悪いので、横の連携も必要です。縦のコミュニケーションが必要ないわけではありませんが、横のコミュニケーションがより大切になっていきます。それに対応するために、これまでの縦のラインが強いピラミッド型から、横に広がった緩めなピラミッド型(フラット型)を取ったり、部門を超えたプロジェクトチームを作り、横の連携を強化しながら進めたりする組織も出てきます(図2)。この場合、組織として現場に求める理想の人材は、〝周囲と円滑なコミュニケーションを取りながら自分で考えて自分で動ける人〟ということになります。
(図2)フラット型組織

このような状況下で、組織のトップや部門のリーダー、上司の役割はどう変化するでしょうか。まずは、現場の人が自分で考えて動くとしても、それぞれが別の方向へ進んでしまっては、組織とは言えません。したがって、ある程度、組織として目指す方向性を示す必要があります。これが、大きくは経営理念、組織ビジョンですし、徐々に細分化されていったものが部門、課の目標となります。そのビジョンが魅力的なものであるほど、組織の求心力を強めることができます。
さらに、コミュニケーションが取りやすいような風通しの良い組織を作り、自ら考えて動ける人材を育成していくことが、リーダーや上司の重要な役割になります。そこで、今回のテーマである〝コーチング〟の出番となるわけです。

Close