はじめに
2030年にあなたの企業や、社会・政治・経済・テクノロジーがどうなっているか、また、どうなっていたいかを想像したり、考えてみたりすることはありますか?
日本国内では少子高齢化が進展する一方で、世界人口は増加し、水・食料・エネルギーなど、我々が生きていくために必要不可欠な資源が逼ひっぱく迫するのではないかと懸念されています。また、テクノロジーについては、シンギュラリティとも呼ばれ、今まで人類が実現できなかったことを、技術の進歩により、現実のものとする術が拡張されてきています。
そうした変化の激しい時代において、企業がどのような経営や戦略を実行していくべきか? 本書は、経営者、経営幹部、コンサルタントや研究者、また将来の会社選びを検討している学生など、企業の経営に関心があるすべての人に向けて執筆しました。
仕事柄、自身の会社もそうですが、クライアントの中長期経営戦略の立案や実行・実現に向けた、新規事業の創発のお手伝いをさせていただく機会が増えてきました。中長期経営戦略については、通常、経営者や経営企画室のメンバーや現場を巻き込んで、将来の会社について様々な観点から議論が展開されます。最終的にアウトプットされるのは数枚~数十枚程度のパワーポイントなのですが、そのアウトプットができ上がるまでにも数々のドラマがあり、とてもエキサイティングな仕事です。
では、なぜ、2030年など将来を見据え、企業戦略や経営計画を立案するのでしょうか? それは、企業が長期の目標や将来像の立案を通じて、「現状」と「あるべき姿」のギャップを認識することができるからです。あるべき姿や目標があるからこそ、その実現に向けてどのようなアクションを起こせば現状と理想のギャップを埋めることができるか、幾つかの仮説を生み出せるわけです。
また、変化の激しい時代だからこそ、中長期の企業のあるべき姿や、ありたい姿を検討することで、企業のそもそもの存在意義を問い直すきっかけとなります。企業の「存在意義の明確化」は、様々な状況変化の中でも、確かな判断軸を持って意思決定することの助けとなります。そのことが、過去のトレンドからの断絶への素早い対応や、外的環境の想定外の変化などへの適応力強化にもつながります。
昨今、企業経営において、売上や利益をいかに生み出すかということは当然のこと。いかに社会的な価値やインパクトを生み出すことができるのか? ということも経営会議で議論される機会が増えてきました。これは、投資家においてもESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)の要素に配慮している企業を重視・選別して投資を行うという、特に長期投資家において顕著となっている潮流とも合致しています。ESG投資は、単に企業がいわゆる「社会的責任」を果たすべきだということを要請するものではなく、むしろESGの要素に配慮している企業や社会の方が、中長期的には成長するという観点や各種研究結果も、こうした動向を後押しする力となっています。
2015年には国連で、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals,以下SDGs)が採択されました。SDGsは、2030年にどういう世界を実現したいかをまとめ、国際社会全体の目標として国連で採択されたものです。SDGsは、企業の規模の大小に関わらず、企業経営においても活用できる特徴を内包しています。その一方で、どのように活用していけばいいのか、悩まれている経営者や担当者も多いのではないでしょうか?
日々の仕事や目先の取り組みに集中することも重要ですが、本書を、目線を将来に向けて、SDGsの企業の取り組み方のヒントや、2030年など将来について考えるきっかけとしていただければ幸いです。