はじめに
<説明はすべての基礎になる>
「伝えたいことがあるのに、うまく伝えられない……」
「一生懸命教えているのに、なかなか理解してもらえない……」
「なんでこんなにも伝わらないのかわからない……」
そう感じたことはありませんか?
私たちは、毎日多くの説明をして過ごしています。
報告・連絡・相談・プレゼン・指示・面接・会議・学校の授業・昨日見たドラマの話……
これらはすべて〝説明〟です。ビジネスの会話も、日常の何気ない会話も、すべて〝説明〟をベースにできています。
説明がうまくできなければ、上司に的確に報告することはできません。部下に指示を出しても、意図した通りに動いてくれません。プレゼンで、自社の商品やサービスの良さをアピールすることができません。昨日見たドラマの話をしても、共感を得ることができません。〝説明〟はこれらすべての基礎になります。
毎日毎日たくさんの説明をしているのに、「うまく説明ができない」と悩んでいる人が多くいます。世の中には、〝説明が上手になる方法〟や〝報連相の仕方〟など、様々なスキルが存在するのに、自分の説明に自信を持てない人がたくさんいます。それは、説明が伝わらない本当の理由を知らないからです。
<「本当の理由」との出会い>
私が高校2年生の時の話です。〝それ〟は、ある授業での突然の出来事でした。
その授業を担当していた先生は、とてもとても優秀な方でした。有名な大学を卒業して、進学校で教鞭をとり、その教科の世界では名の通った先生でした。授業の内容は、どの教科書を見ても1ページ目に載っているような、基礎の基礎からのスタートでした。優秀な先生に基礎の基礎から教えてもらう、生徒にとっては理想的な環境でした。
しかし、いざ授業が始まってみると、「この先生、何を言っているのか全然わかんない……」「説明がわかりにくくて、全く理解できない……。これでは赤点になってしまう……」。
基礎の基礎から説明しているはずなのに、私を含めたクラス全員が、先生の説明を全く理解することができなかったのです。次の授業も、その次の授業も、先生の説明が理解できないまま進んでいきます。そして、ついに期末試験が目前にまで迫ってきました。
期末試験の前日、一番最後の授業がその先生の授業でした。前回の授業で試験範囲はすべて終わっていたので、その日の授業は試験範囲の復習をすることになりました。私はその日の時点で一通り試験範囲を勉強していたので、勉強しきれていない部分がないか、確認するつもりで授業を受けました(先生の説明は全く理解できていませんでしたが、試験勉強は教科書とノートを駆使して、何とかやりました!)。
復習の授業が始まると、不思議なことが起こりました。
「あれ? 今日の先生の説明、すごくわかりやすいぞ……!」
今までずっとわかりにくかった先生の説明が、その日はとてもわかりやすく、どんどん頭に入ってくるのです。「なんで今日はこんなにわかりやすいんだ? 急にどうしたんだ?」。私は驚きのあまり復習どころではありませんでした。
しかし、周りの友人たちを見てみると、反応がいつもと変わりません。顔に「相変わらずわかりにくい説明だ」と書いてあります。意識して先生の説明の仕方を聞いても、いつもと変わった様子はありません。疑問に思いながら授業を受けているうちに、その理由がわかりました。
「試験勉強をして予備知識がついていたからだ!」
先生はとても優秀です。先生は私たちのために〝1から〟教えてくれていました。しかし、優秀な先生の〝1から〟は、私たち生徒の〝1から〟ではなかったのです。先生にとっての〝1から〟は、知識の全くない私たち生徒にとっては、2や3から始まっていたのです。試験勉強をして予備知識がついたことによって、その差が埋まり、先生の説明が急にわかりやすくなったように感じたのです。
「先生と自分の間に〝すきま〟がある。この〝すきま〟が説明をわかりにくくさせているんだ!」
これが「本当の理由」との出会いでした。