―はじめに―
私は、障害者と呼ばれる方々の就労支援に携わってきました。障害者と言いましても種別があり、大きく分けると「身体障害」「知的障害」「精神障害」「発達障害」に分かれます。そんな中でも、私が多く携わってきたのが、「精神障害」という診断のついた方々でした。
「精神障害」にもいろいろとあります。よく耳にするもので言うと、うつ病や統合失調症、双極性障害(躁うつ病)、依存症などです。
また、障害というのは何かひとつに限ったものではなく、併存障害といって、他の障害が合併していることもあります。例えば、知的障害や発達障害の方が社会に馴染めずに精神障害を併発したり、事故などで身体障害になってしまった方が現状を受け止め切れずに、気持ちが塞ぎ込んで精神障害を併発したりといったこともあります。
私は、このようななんらかの事情で「精神障害」と診断がついた方の就労支援を行っていました。就労支援を行う中で気が付いたのは、これまでの職業生活の中でメンタル不調に陥り、体調を崩して診断がついたという人が多いということです。
精神障害者の雇用は実際のところ年々増えており、平成30年4月より、障害者雇用促進法に「精神障害者の雇用の義務化」が盛り込まれたことや、企業の受け入れ側としての体制も整ってきていることから、雇用の機会は益々拡大していくと思われます。今後は、採用したかたが定着するという体制をいかに整えていけるかが課題になってきます。
ただ、私はここでひとつの疑問にぶつかりました。
「そもそも、メンタル不調にならなければいいのではないか?」
すべてのメンタル不調の発生を防ぐことは難しいかもしれません。ただ、仕事が原因で人にメンタル不調が起こるのを減らすことはできるのではないか、と考えたのです。そこで、私は障害者の就労支援から離れ、障害者を従業員として雇用して運営している(全従業員の9割が障害者と高齢者)食品加工工場で障害者のマネジメントを経験し、休職者の復職支援に携わったのちに独立しました。
これらの経験から出た答え。それは、メンタル不調の発生を防ぐには本人の力も必要だけれど、それ以上にその人材をマネジメントする力と環境が重要であるということです。
ダイバーシティ(多様性)という言葉を耳にする機会が増えました。いくら会社で方針を打ち出したところで、それだけではうまくはいきません。多様な人材を活かしていけるチームをつくれるのは、現場レベルのリーダーのみです。そして、この多様な人材を活かしていけるチームこそ、人がメンタル不調に陥るのを防ぐ理想の形なのです。
メンタル不調が理由で休職となった人にかかるコストをご存知でしょうか? 内閣府男女共同参画局が試算・公表している内容によると、休職期間が6ヶ月の場合、休職前・復職後の生産性の低下も考慮すると、その人の給与9ヶ月分のコストが発生するという結果が出ています。
時代は人材不足。新たな人材の確保も重要な課題ではありますが、だからこそ、いまいる人材を離脱させることなく、活かし続けていけるマネジメント力が、これからのリーダーに求められるスキルでもあり、また評価されるポイントのひとつになるでしょう。
本書では、メンタル不調者を出さないマネジメントのポイントを、5つのSTEPでお伝えしていきます。
STEP1 障害についての基礎知識
STEP2 多様な人材を活かすリーダーに必要な条件
STEP3 どのような相手(多様な人材)の心でも開くコミュニケーション力
STEP4 部下に折れない心をつくる自信(自己肯定感)を持たせる方法
STEP5 多様な人材が最大のパフォーマンスを発揮できるチームの風土づくり
そして最後まで読んでくださった後に、メンタル不調者を出さないリーダーの在り方について、違った角度から一緒に振り返りましょう。
私のモットーは、「部下が使えないと嘆く人こそ使えない」です。
本書が、これからのリーダーに求められる、「多様な人材を活かし、不調者を出さないチームをつくるマネジメント力」を身に付けるきっかけとなれば嬉しく思います。