〝小さなもの(細やかなもの、弱いもの)〟という言葉が意味するもの
まず皆さんに、〝小さなもの(細やかなもの、弱いもの)〟に対するイメージを頭に思い描いて頂くことから始めたいと思う。
1. 〝小さなもの(細やかなもの、弱いもの)〟は諺ではどのように見られているか?
この世の中には大きなもの(強いもの)と小さなもの(細やかなもの、弱いもの)とがあり、それぞれの長所、短所について太古の昔から議論されてきたようである。この議論の結果が、諺や故事の形をとって、昔から語り伝えられてきていると言ってもいいだろう。本書の主なテーマは、小さなもの(細やかなもの、弱いもの)の存在意義を述べ、しかもそれが世の中になくてはならないものだということを皆さんにご理解頂くことだが、話を進めるに当たって両者の比較をすることから始めたいと思う。
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「一寸の虫にも五分の魂」「柔よく剛を制す」「雨垂れ石を穿つ」「山椒は小粒でもぴりりと辛い」などは、小さなもの(細やかなもの、弱いもの)にも強さがあることを表したものである。また、「微に入り、細を穿つ」は、細やかな様子を賛美した表現である。一方、「独活の大木」、「大男、総身に知恵が回りかね」は大きなもの(強いもの)を若干貶した表現である。更に、「驕る平家は久しからず」「足るを知る者は富む」「能ある鷹は爪を隠す」というのがある。これらは、強いものに謙虚さと自粛を求めたものであるし、「寄らば大樹の陰」「長い物には巻かれろ」は、強いものに依存しすぎることを誡めたものと言える。「忖度する」「へつらう」はこれらの親戚筋の言葉と言える。また「判官贔屓」は強者を誡め、弱者に与した姿勢を示している。水戸黄門や大岡越前の話が今でも人気を得ていることにも同様のことが窺える。
このように見てみると、小さなもの(細やかなもの、弱いもの)を好意的に見た諺や故事が意外に多く、大きなもの(強いもの)を褒め称えたものが比較的少ないことがわかる。
もっとも、「小事は大事」に対する「小事に拘わりて大事を忘るな」、「貧すれば鈍する」に対する「貧にして楽しむ」のように、相対立する概念があると共に、一方に偏することなくバランスをとった対語もある。また、ものの観察の仕方として、「針の穴から天を覗く」と「鳥瞰的に見る」のような対語もある。更に、「鶏口となるも牛後となるなかれ」のように、大きな組織の末端にいるよりは、小さな組織でもいいからその長になることを推奨するような諺もある。
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以上を概括的に見ると、小さなもの(細やかなもの、弱いもの)を好意的に見たものや、弱いものに元気を出せと鼓舞しているような諺が意外と多いように思われる。皆さんは、どのように思われるだろうか。
物語や寓話においても、小さなもの(細やかなもの、弱いもの)が取り上げられ、好意的に賛美されている例も多いようだ。