ブランドの効果
ブランディングが成功すると、予想を超えるような様々な効果が生まれてきます。
お客様に対する商品や企業の知名度がアップすることで、その価値が上がるのはもちろん、より多くの売上や商談成立も期待できるようになります。また無形の固定資産である営業権(のれん代)の価値が高くなり、銀行与信度も上がって資金調達も容易になります。
さらにブランドのハロー効果(相乗効果)により、新規事業への参入リスクも軽減できるでしょう。
一方で、企業内部に目を向けると、会社の知名度向上のお陰で優秀な人材が採用しやすくなりますし、社員がプライドを持って業務に取り組めるようになるなど、社内の活性化にも貢献するようになります。
このほか、ブランディングに基づいた社内目標の統一化によって10年後、20年後といった企業ビジョンが共有されやすくなるなど、ブランドの効果は計り知れない大きな利益をもたらしてくれるのです。
ただし、ブランドは前述したようにお客様との信頼関係によって培われるものであるということから、不適切会計、商品の不具合やデータ偽装、コンプライアンス違反など、社会的信用を失うような事態を引き起こさないためのリスク管理も万全の態勢で取り組んでおかなければなりません。いわゆるブランディングのアクセルとリスク管理のブレーキを常に意識しながら戦略を進めていくことを忘れてはならないのです。
ブランディングへのきっかけ
私は、某大学水産研究所の事務長として勤務していた時、「研究所の収入を伸ばすためには商品価値を高めて単価を上げるしかない」と養殖マグロのブランディングを企画、立案段階から仕掛け、様々な壁にぶつかりながらも何とかメジャーブランドへと導くことに成功しました。根強い反対の中、そのブランディングの最初に取り組んだことは、当時では珍しかった大学発ベンチャー企業の設立でした。
利潤追求を最大の目的とする企業的意識に乏しい大学教職員に対して、収入を増やすことの重要性とブランディングの必要性を強く認識してもらうため、ほんの少しの資本金で設立したこの会社は、その後順調に業績を伸ばし、最初の3年間で資本金が1,000万円に増資され、さらに10年後の現在では外部資金も投入されて、資本金5,000万円を超える立派な企業となって大きく成長を続けています。
そして、この時に学び、経験した養殖マグロのブランディングは、後にマグロという商品ブランドだけでなく、大学全体のコーポレートブランド(企業ブランド)として大きく花を咲かせる礎となったばかりでなく、大学以外の企業や組織にとっても非常に効果的なブランディングノウハウとして、活かされていくことになったのです。
本書の前半では、大学の研究所という小さな組織の、そして吹けば飛ぶような小さな会社だった大学発ベンチャー企業の、様々な固定観念や常識の壁に阻まれながらも目的に向かって挑戦し続け、成功へとたどり着いたブランディング物語を、養殖マグロという具体的事例を挙げて紹介していきます。
また後半では、製造業やサービス業など様々な業種の中小企業や、少子高齢化問題を抱える大学や地方自治体、あるいは個人で事業を営む事業主にも当てはめることができるブランディングの方法を、シンプルな「オークジェイ戦略モデル」としてわかりやすく紹介いたします。
本書が、我が国にある400万社を超える企業のうちの実に99・7%までを占めるという中小企業をはじめ、ブランディングで商品力を高めて活性化を図りたいと願うすべてのみなさまの、改革につながるヒントになれば幸いです。