子どもが東大に入ったら幸せか?
待望の子どもを妊娠し、ワクワクと希望に満ちあふれていた期間、私は安易にこんなことを考えていました。「頭の良い子に育てたい」。
世の中にはたくさんの育児本があふれていました。
「賢い子どもに育てるためには……」「これさえやればあなたの子どももIQ○○○に!」
幼児教育を先取りしてやらせれば、きっと子どもは能力の高い、賢い子になるだろう。目指すは東大?
このころの私は、私の育て方次第で子どもはどんなふうにでもなると思っていました。あらゆる育児本を読みました。子どもが産まれてからはいろいろな育児法も試してみました。しかし、結果はどれもピンとくるものではありませんでした。
最初に浮かんだ疑問は、「本当に自分の子が賢くなるのか?」です。
私は疑い深い性格なので、面白そうな記述がある場合は鵜呑みにせず、必ずその反論を見るようにしています。
ある幼児教材ではその教材で子どもの計算力が上がるとうたわれていました。その教材を試した方の感想には「まったく効果がなかった」「●歳のときには大人顔負けの計算ができるようになったが、その結果コミュニケーションが欠けている子になってしまった」といった反論がありました。また別の英語教材では、その教材で将来世界に通じる英語力がつくとうたわれていました。しかし「教材がおもちゃになってしまい、その後すぐに飽きてしまった」「辞めてしまったらすぐに英語力がなくなってしまうので、ずっと続けなければならない。そんなに継続してお金をかけられない」などの不満の声がありました。
どんなものにもメリットデメリットはありますが、幼児教育に関して調べれば調べるほど、その成功事例が全体のほんの数%であったり、たとえ成功したとしても、必ずしも喜ばしいことではなかったりという例がありました。まれに「万々歳!」というような成功事例があっても、それはもともとその子の持っている才能が教材と一致したケースに過ぎないのだと感じました。
このように、「自分の子どもが必ず能力を上げられる」と確証がもてる幼児教育はなく、お金儲けの道具だったり、子どもの特性によって結果が異なるものだったりする……という結論に至りました。
そして次に浮かんだ疑問は「頭の良い子にすれば良いのか?」です。
子どもが難関大学に入ったらきっと嬉しいでしょう。誇らしいでしょう。しかし、高学歴な子が犯罪者になる例もたくさんあります。つい最近も、高学歴の子が親族を殺してしまった事件がありました。「まじめで成績も良かった」という子が、なぜ犯罪を起こすのでしょうか? 人を傷つけてしまうのでしょうか?
高学歴だけれど社会になじめず引きこもりになる場合もあります。他者とのコミュニケーションがうまくいかず、誰に対しても心を開かず、人生の大半を部屋の中で過ごすという人もいます。
ただ単に東大に入れれば良いのでしょうか? その子は東大に入ったら幸せなのでしょうか?
そして親である私たちも、「子どもが東大に入ったらすべて良し」なのでしょうか?
そうではないはずです。たとえ高学歴の子どもを育てることができても、不幸になってしまったら元も子もありません。私は、IQを高める幼児教育以前に、やるべきことがある気がしてなりませんでした。
高学歴を否定しているわけではありませんが、高学歴に育てることはあくまで過程であり、目的ではありません。大切なものを見失ってまでIQ型幼児教育をすることには、大きな疑問があります。親である私たちは、子どものその先をもっと考えてあげなければなりません。東大に入ることをゴールにすべきではないのです。子どもはその先もずっと、生き続けるのです。頭の良い子に育てること、高学歴に育てることは悪いことではありませんが、それ以前に大切なことがあると意識しなければなりません。本当に大切なものが何なのか、しっかり考えたうえで子どもの教育をするべきなのです。